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間宮渚 9 対面 3

last update Last Updated: 2025-06-25 09:55:43

「チッ……。だんまりかよ」

渚は舌打ちした。

ここは確かに自分の夢の中だとの自覚はある。けれどもこの後自分はどうすれば良いのか全く見当がつかない。仕方が無いので多少不気味ではあったが、男の近くに渚も座り、千尋の様子を見るしかなかった。

「ふうん……あの女、あんな広い家なのに一人暮らししてるみたいだな。俺と同じで家族はいないのか?」

渚は千尋が一人で食事をしている姿を見ながら呟いた。

「孤独……か……」

渚は隣にいる男をチラリと見ると無駄だと知りつつも話しかけてみた。

「お前あの千尋って女が気になってまだ俺の中に残ってるのか? ほっといてもな、人間は置かれた状況に慣れていくもんなんだ。大体お前に出来ることなんてもう何も無いんだよ。だからさっさと俺の中から消えてしまえ」

 その時、誰かに強い力で後ろから肩を掴まれた。

「!」

驚いて顔を上げると、目の前には祐樹の顔があり渚を覗き込んでいた。

「な、何だよ! 驚かすなよ!」

「何言ってるんだよ。何回呼んでもちっともお前が目を覚まさないからだろう? 俺は今からバイト行って来るからな。お前、これから俺の世話になるんだから何か晩飯作っておけよ? 冷蔵庫の中の食材勝手に使っていいからさ」

祐樹はジャケットを羽織った。

「ったく、分かったよ。何か作ればいいんだろう?」

渚は欠伸をしながら返事をする。

「ああ、じゃあな」

渚は祐樹が出て行くと呟いた。

「う……ん。何か夢を見ていた気がするんだけどな……? ちっとも思いだせやしないぜ」

でも何か大事な夢だった気がする。思い出せないのがもどかしく感じた。

「ま、いいか。それより何か飯作らないとな」

渚は台所へ行き、冷蔵庫を開けた――

****

 22時――

祐樹が塾講師のバイトから帰宅した。

「お? 何かいい匂いするな?」

部屋に入るなり祐樹が言った。

「おう、お疲れ。塾の講師って結構帰って来るの遅いんだな」

渚がテレビを観ながら返事をする。

「まあな。で、何作ったんだ?」

「お前なあー。冷蔵庫にある食材で作れって言ったけど、ろくなもの無かったぞ。取りあえず野菜とベーコンがあったから、チーズを加えた鍋を作ってやったぜ」

「お前はもう食ったのか?」

「いや。悪いからお前が帰って来るの待ってた」

渚はテーブルに鍋と食器を運んできた。

「じゃ、食うか」

「へえ~。お前、何か少し変わったな」

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